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すくすく水着
すくすく水着

 ■ 濡れた夏の思い出

 聞こえてくる……。何処か遠いところから歓声やざわめきが聞こえてくる……。
 その夏で一番の暑い日。小学校の水泳大会の日。
 出場する選手への声援や掛け声、ゴールした子への拍手。
 いつもとは異なる行事に興奮した児童たちの甲高い声が、うつろな校舎に響いてきてこだまする。
 泡が弾けるような声を遠くに聞きながら、俺は廊下を歩いていた。
 ひんやりしたリノリウム張りの床が、火照った足の裏を心地よく冷やす。
 水に濡れた足跡を残しながら、俺は自分の教室へと入っていく。
 中には誰も、居ない。クラスメイトは全員、プールに出払っている。
 平泳ぎ三年生の部に出場する予定だった俺は、直前になって水泳帽を忘れたことに気付いたのだ。
 家を出る時には確かに持っていたはず。となれば教室に置いたままの、スイミングバッグの中に違いない。

「…………あった」

 思った通りバッグの底にへばりついていた帽子を見つけ、俺はホッと胸を撫で下ろす。
 急いで戻らないと……。

「今日は、トクベツだもんな」

 勉強も運動もパッとしない俺だけど、泳ぐのだけは別。
 海の近くに住んでいるじいちゃんに可愛がられてたせいで、歩き出すよりも早く泳ぎを覚えた。
 だから今日はトクベツな日。年に一度、俺がヒーローになれる日……。
 競技に遅れないよう急ぎ足で教室を出ようとして……ふと何かが目に留まった。

「……え……?」

 教室の後ろに、ずらりと並んだ荷物入れの棚……。その端の方に何か丸まった物体が置いてある。
 近寄ってみると、どうやら布のようだ。
 水浸しになっているようで、布の周囲の棚は木目が浮き出るくらいに黒く濡れている。

「これって……もしかして……」

 ある予感に胸がドキンと鳴った。
 恐る恐る手に取る。ゆっくりと広げる。と、それは思った通りの形になる。

「……うわあ、女子の水着、だ……」

 ごわごわした濃紺のナイロンの水着。学校指定のそれは、児童全員が同じデザインなのだけれど……。
 胸のところに大きな名札が縫い付けてある。

「3年3組、きたもと、さくらこ……」

 桜子ちゃんのだ、と分かると再び胸が大きくドキンドキンと鳴った。
 桜子ちゃんはすごく可愛い。それに他の女子よりも大人っぽくてカッコイイ。
 水着の水分はだいぶ棚に吸い取られていたけれど、それでもはまだじっとりと湿っている。
 日差しで温められてぬるくなった布地が、桜子ちゃんの体温みたいだ。
 俺は手にした水着を捧げ持つようにして顔の前まで持ち上げて……。

「………………くん」

 目をつぶって匂いを……嗅いだ。
 プール独特のカルキ臭がツンと鼻の奥を突っついて、くすぐってくる。

「……くん、くん、くん……」

 刺激のある臭いの奥に、何か別な甘くて酸っぱい香りがするような気がして……。
 俺は何度も何度も深く息を吸う。

「……くんくん、くんくん……」

 これ何の匂いなんだろう。正体が知りたい……。
 もっと深くもっと何度も胸いっぱいに吸えば分かるかもしれない……。
 俺は布を顔にぎゅうっと押し当てる。

「くんくんくんくんくんくん……」

 あまり深く長い息をしすぎて頭がくらくらしてくる。俺は犬みたいにハアハアと舌を突き出す。
 ざらり。
 伸ばした舌の先にナイロンが触れた。

「……ぺろっ」

 舌先を少しだけ動かしてみる。味はあんまりしない。
 プールの水をひなたに置いた味っていう気がした。

「ぺろっ、ぺろっ……」

 舐めるところが間違ってるのかもしれない。表側だからきっと味が無いんだ……。
 裏側を舐めたら味がするのかも……。

「ぺろ、ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……」

 裏返しにしたスクール水着は股のところだけ白いネットみたいな布が張ってある。
 俺はそこに口をつけて舐めてみる。
 気のせいかもしれないけど、うっすらと水じゃない味がある……ような気がした。

「ちゅるっ……ちゅりゅりゅりゅ……」

 もはや舐めるだけじゃ足りない。口に含んでちゅうちゅうと吸い付く。
 布地に残った僅かな水分を全て吸い尽くすくらいの勢いで、俺は唇をすぼめて懸命に……。

「なっ……何してんのよっ!?」

 いきなり、世界が、崩れた。

「岬っ!? ちょっと、それ、何!?」
「隠さないで! 見せなさいよっ!」

 いつの間にか教室に戻ってきた女子たちが口々に叫びながら俺を取り囲む。

「やだーっ、これ、桜子ちゃんの水着じゃない!? やらしいっ!」

 多勢に無勢で水着を取り上げられ、俺はなすすべもなくうなだれる。

「こら、何を騒いでるの? みんな、静かにしなさい!」

 騒ぎを聞きつけて担任の天野先生までが飛んできた。

「先生! 岬くん、いけないんです!」
「そうです! 桜子ちゃんの水着、岬が盗んだんです!」

 女子はここぞとばかりに言いつける。

「岬くん!?」

 先生の顔が引きつった。

「ち、違う……」

 俺はぶるぶると首を振る。
 盗んだわけじゃない。
 そこに置いてあったから手にしただけ。
 盗んだわけじゃ、ない。

「岬くん。本当にあなたが盗ったの? 正直に言ってちょうだい。ね?」

 天野先生の声が次第に尖ってくる。

「ち、違う……違う……違う……」

 首をふりつづけるうちに、頭がぐらぐらして涙が滲んだ。
 視界がぼやけて周囲の女子の顔が、のっぺらぼうに見えてくる。

「嘘つき! 水着持ってたじゃない!」
「そうよ、岬、桜子ちゃん、好きだって噂だったもん!」

 蜂の巣をつついたような騒ぎに、とうとう天野先生は金切り声を張り上げる。

「とにかく! 岬くんの親御さんを呼んで、じっくりお話しますからね!」

 先生が職員室へと走っていく。
 だが監視者が居なくなった今、女の子たちは本格的に牙をむいて襲い掛かってきたのだ。

「岬! あんた、さっき何してたの!」
「………………」
「水着、盗んだだけじゃないでしょ! 変なコトしてたでしょ!?」

 見られていた。水着を手にした場面ではなくその前のところから……。

「白状しなさいよ! ここで言わないと先生に言いつけるんだから!」

 先生に知られるというのは親にも知られるということだった。それだけは嫌だ。
 意を決して口を開く。

「に、匂い……嗅いだ」

 キャーッと悲鳴が上がった。

「それだけじゃないでしょ!?」
「他に、何してたのよっ!」

 追求の手は緩まない。それどころか鋭さを増す一方だった。

「………………な、ナメた……」

 再び頭の天辺から突き抜けるような女子の悲鳴の嵐。

「他には!? あたしたちが来なかったら、どうする気だったの!?」
「………………」

 どうするつもりだったんだろう。自分でも分からなかった。
 水着を手にしたら胸が高鳴ってどうしようもなくて、切なくて苦しくてもどかしくて、気がついたら舐めていた。
 だけど、あのまま続けていたら俺はいったい何を……。

「……岬」

 凛とした声がした途端に、女子は急に静かになった。

「……その水着、もう、いらないから」

 声の主であり、水着の持ち主でもある桜子ちゃんが蔑むような目で見ている。

「それ、岬にあげる。だから……」

 一瞬、言いよどむように唇を噛んで。

「したかったこと、すればいい」

 取り上げられていた水着が、目の前の床にびしゃっと捨てられる。

「拾いなさいよ!」

 何か言わなくちゃいけない。だけどもうどうすればいいのか分からない。
 分からないから言われた通りにするしかない。
 のろのろと俺は水着に手を伸ばす。だらしなく床にへばりついていた水着を持ち上げた俺は……。

「……くん、くん……」

 鼻先を水着に突っ込んだ。湧き上がる甲高い悲鳴。

「変態! 岬、やっぱり変態だっ!」

 匂いがする……。ひなたのぬるまったい水の匂い。カルキの臭い。でも、それだけじゃなくて……。

「岬って、ほんとにヘンタイじゃん!」

 誰かに背中を蹴られて、俺は前のめりに床に倒れこんだ。
 横倒しになったまま、ナイロンの布地に顔を押し付ける。
 邪魔、しないで。もう少し……もう少しで、何の匂いか分かりそうなんだ……。

「ヘンタイ! ヘンタイ!」

 ああ……お腹の下がゾクゾクする。心臓がおへそにもあるみたいに、ドキンドキンって動いている……。
 俺は目を閉じたまま、手に握った布で腹を押さえた。

「うっ……」

 ツキン、と甘酸っぱい痺れが背骨の中を通り抜けた。鼻の奥につぅんと何かの匂いが広がる。

「い、今の……今の、匂い……」

 もう一回確かめたくて、布をお腹に……お腹の下のほうに当ててみる。

「あうぅっ!」

 甘い痺れが今度は背中だけじゃなくて股の奥にじわあっと広がっていった。
 もっと強い感触が欲しくて、布をぎゅうっと股間に押し付ける。
 押し付けると、そのまま自然に腰が揺れ始めた。

「やっ、やだっ! 何あれ!?」
「あたし知ってる! これってオナニーだよ! 岬、オナニーしてるんだよ!」
「うそぉっ!?」

 周りは騒然として、もはや誰かの言葉を聞き分けられないくらいだった。
 だけど、この時生まれて初めて自慰行為に目覚めた俺には、むしろその方が都合が良く……。
 というより既に周囲のことなど頭から消え去っていて……。

「ヘンタイっ!」

 どんっ、と強い衝撃を感じた。誰かが蹴ったみたいだった。

「汚いっ! 死んじゃえっ!」

 それを切っ掛けに女の子たちは一斉に俺に襲い掛かってきた。
 踏みつけられ、罵しられ、それでも俺はスクール水着を股間に押し当てて腰を振ってしまう。
 オチンチンが擦れてぼやぼやした熱を帯びて固くなっていく。
 なんだろうオチンチンがこんなに腫れて息が苦しくなって心臓がどきんどきんして切なくてオシッコが漏れそうなのに背中がズキズキしてああ俺は病気なんだこのまま死んじゃうのかもしれないきっとそうだ死んでしまうんだけど何でもいいやもう何も考えたくないやだからだから……。

「な……何をしてるの! 岬くん!?」

 ちょうどその時、戻ってきた天野先生が状況を見てとるなり学校中に響き渡りそうなヒステリックな悲鳴を上げて……。
すくすく水着

「ぶはーっ、はーっ、はーっ……」

 飛び起きた。
 全身にびっしょりと脂汗をかいていて、肌にシャツが貼り付いている。
 夢、だ……。分かっている。ただの夢だ。
 夏になると繰り返し見てしまう果てしない悪夢。小学生の時の傷痕のような記憶。

「……お、俺は……盗んで、ない」

 内容はいつも同じだ。
 クラスの女の子たちに水着泥棒の汚名を着せられた俺は、言いわけ一つ出来ずに泣きながら……。
 泣きながら……どうなるんだっけ。

「……あれ?」

 思い出せない。
 起きた途端に夢の細部をを忘れてしまうのだが……まあいい。
 出来ることならすっぱり全部忘れたい。
 それに、こんな夢を見た原因は分かっている。プレッシャーだ。
 明日から俺はさざなみ学園でプール監視員のアルバイトをすることになっているのだ。
 小学生の事件以来、すっかり女が苦手になった俺にとって女学園の水泳部でバイトするなどという行動は苦行以外の何者でもない、のだが……。
 世間のしがらみで断ることも出来なかったわけで。

「ううぅ……嵐でも来ないかな……」

 呟きながら再びベッドに横になった。



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